無題
2004/07/16 (金)

ウサギが我が家にやってきたのは、団地にすんでいた5年前の冬のこと。
保育園の庭に置き去りにされていた捨てウサギだった。
田舎に引越しが決まっていたので、二つ返事で貰い受けたウサギの「きりもち」
顎の下の盛り上がった肉が見事に二重になっていて
鏡餅のようだった。

その出来事は突然やってきた。
ベランダに作った特製の小屋の扉を開けたとたん、
転がり落ちた「何か」。
肉の塊。
ネズミ?ウサギって肉食だっけ?こんな頓珍漢な疑問を持つほど無知だった。
きりもちはお母さんになろうとしていたんだ。
小さい格子の隙間から必死で食いちぎった毛布の毛玉がひとかけら落ちていた。

子供たちは5匹。すべて冷たくなっていた。
小さな亡骸を手のひらに乗せて、息子と二人でベランダで泣いた。
赤剥けに見える仔ウサギ、きりもちと同じ模様があった。

それから、何事もなかったように
きりもちは家族の一員として田舎暮らしを満喫していた・・・と思う。
ウサギは鳴かない。怒らないし、喜ばない。
淡々と草を手繰り込み、野菜くずを食べ続け、可愛い正露丸を出し続けた。
ウサギのうんこはネギの肥やしに最適だ、と教えてくれた人がいる。
真意の程は定かではないが、我が家の堆肥に大いに役に立った。

そのきりもちが、
今日 静かに横になっていた。

顎の下の白い毛は、うちに来た時と変わらず真っ白でふわふわで
とても年とっていたとは思えなかった。
家を飛び出してきた息子は、あんなに可愛がっていたのに抱きもせず トウグワを取り出して穴を掘り始めた。
動物たちの死に慣れてきたのか、大人になったのか。
そうじゃない。穴を掘りながら、泣いていたんだ。

新築の木の匂いのする我が家も風雨にさらされて少しだけ貫禄が出てきた。
削りたてだった床も、汗と油で光り始めた。
一緒に過ごしたきりもちとのひと時も 我が家の歴史になるんだな。
ありがとう、きり。

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百姓一記
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