初霜(創作童話5)
2003/12/09 (火)

hare.gif 里の秋〜風の歌・3 97/09/12

 風の子ふうたくんが、別の里へ行きました。
ここの里はもう少し行けば山麓が近いようです。


 栗くんは、いがいがに守られながら甘い大きな栗の実を付けます。
 椎(しい)くんは、ほんのり甘い実を恥ずかしそうに付けます。
 栃くんは、煮ても焼いても食べられないほど渋い、真ん丸の実を付けます。


ふうた;やぁ、みんなこんにちは。
    ここは、どんぐりの里なんだね。
    僕、ふうた。バオバブくんを探している旅の途中なんだ。

    あれ?栃くん、どうして泣いてるの?


栗;ふうたくん、聞いてやっておくれよ。
  人間は栃くんの実を「煮ても焼いても食えない」って馬鹿にするんだ。

椎;ホントに人間って、見た目で判断するわよね。
  私達の中で、一番大きな実を付ける栃くんを馬鹿にするなんて。

栃;みんなありがとう。
  でも、僕の実が渋くてどうしようもないのは本当の事だもの。仕方がないよ。 

ふうた;ちょっと待ってよ。栃くん。
    神様が作ったものには無駄なものは一つもないんだって、物知りのバオバブくんが言ってたよ。
    僕、バオバブくんに会えたら、栃くんの事を相談してみるよ。


・・・・・数年後、郵便係りのクマゲラくんが、栃くんへ一通の手紙を届けに来ました。・・・・・・


栃くんへ
                        
 やっと、バオバブくんに会う事が出来ました。
早速、栃くんの事を聞いたら、西洋のマロニエくんという栃くんの親戚の話をしてくれたよ。
 地方によっては、灰汁(あく)で、実を煮たあとに流水にさらして食べているんだよ。
日本でも、縄文時代から栃くんの大きな丸い実は、大切な食べ物だったんだって。
バオバブくんは、栃くんの事をとっても誉めていたよ。
とってもとっても大切な人(樹)なんだって。
                            風の子ふうた



 風の子ふうたくんが、一陣の風に乗せて、栃の実の食べかたを里の人達に伝えました。里では「栃餅」「栃の実煎餅」等にして親しまれるようになりました。飢饉の時などには、最も重要な山の恵みになったようです。

後の世で、科学者と呼ばれる人間達が、栃の実を調べてみると、どんぐりの種類の中で、最も栄養(澱粉)が多いのだと判ったそうです。
(栃の実は、3〜4cmの球形、ピンポン玉くらいの大きさ。)

 また、日本の樹の中では最も大きくなる部類の幹は、「栃の絹肌」と言われるような柔らかな風合いが、家具やテーブルに重宝されました。

 
ぶな菜園日記
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