「日本の食料はどうあるべきか。」
2004/07/07 (水)

 平成16年(2004年)6月1日(火曜日)産経新聞

「私の正論」  James加藤(東京都・塾講師)・・・昭和53年6月東京都生まれ。ロサンゼルス育ち。25歳。横浜国立大経営学部卒業。東洋英和女学院大学院修士課程修了。趣味はスキューバダイビング。入選1回。佳作2回。

「日本の食料はどうあるべきか。」

ここ、数十年、日本は飽食の時代を迎えている。食糧難は戦前、戦後の思い出話となり、町に食べ物が溢れている記憶しか持たない世代が確実に増えてきている。われわれが一年間で捨てる食料はどれぐらいの量となるであろうか。しかし一方で食糧不足に喘ぐ地域もある。栄養が足りずにこの世を去る幼き命もあるのである。日本の中で日常過ごす私たちには現実として受け止め難い事実であるが、世界規模でも食糧難時代は近づきつつある。そのような世界の流れの中で、先進国で特に食糧自給率の低い日本はどのように対処すればよいのであろうか。

 GNP(国民総生産)で見る世界の姿と食糧自給率を比べると、一人当たりGNPでは世界二位、東京のみならば世界一位という世界有数の経済力を持つ日本が、食糧自給率では非常に低く、穀物の輸入額に関しては世界一位という驚くべきデータに出会う。」もちろん、経済発展の中で食への嗜好も多様化し、日本国内では自給できない食料を輸入することもあるであろう。しかし、このデータはその範囲をはるかに超えるものである。国際分業の効率性の高さはアダム・スミスも認めるところであるし、D・リカードの理論に実証されている。戦後、産業構造を軽工業から重化学工業へとシフトさせ、加工貿易によって高度成長を成し遂げた日本が、その発展を加速させるために農業、水産業を犠牲にしたことへの評価は賛否があり一概に結論づけられない。しかし、より大局的な見地から考察すれば、日本の安全保障は日々脅かされているという事となる。

食糧自給率低下国家存亡の危機

 食料輸入が途絶えるという現実が、高い確率で起こることは考え難いが、生命の根幹を支える食料を自給できないということは国家の存亡に関わる憂慮すべき事態なのである。国民の嗜好がスローフードへと変わりつつある傾向は見えるものの、穀物自給率が低い以上、自前で国民を養う力が国家に無いのは明白である。国際政治におけるプレゼンスは国家の影響力に比例する。それが軍事力であったり、経済力、資源であったりすり。これらを鑑みた時に、アメリカのプレゼンスの大きさが世界最強の軍事力のみに支えられえいるのではないことが分かる。一人当たりGNPでは四位に甘んじるが、GNPでは圧倒的な一位であり、食糧自給率は100%を超え、穀物輸出は世界最大である。石油も自前で調達でき、企業売り上げのランキングも上位は全てアメリカ企業であり、アメリカを外交的に不利に陥らせる要因はあまりない。それに対して日本は、先に述べたように経済力では大国であるが、食料分野ではいつでも国家存亡の危機に陥る可能性があるのである。

 海外において、日本食の代名詞は寿司、天麩羅である。しかし、海老の輸入が環境破壊とともに有名であるが、実は水産物輸入の圧倒的一位は日本であり、寿司のネタも天麩羅の海老も衣の小麦粉も輸入に頼っているという現状がある。このような現状に対して国家規模の対策を政府が進めるべきなのはいうまでもない。国の農業行政が農家を守る一方で、日本の食糧自給率を落としてきたのは否めない。より積極的企業の農業分野への誘致、大規模農業を可能にする支援計画など、さらなる農業行政の充実を期待する。一方において、国民レベルでの飽食への対策も求められる。日本の食糧自給率が上がったとしても、世界規模で起こるとされる食糧危機が日本には無関係とは断言できず、飽食への自制をしなければならない。

 この取り組みは一朝一夕いはいかないであろう。私は文部科学省や農林水産省が主導した食への教育改革が必要であると考える。日本には八百万の神が住むという精神世界は、前時代的だとか、戦前的などの政治的思惑によって消されてはならない思想であると。沢山の神の恵みと、農家、漁師の人たちの努力が、私たちの食卓を支えている。そして、そこに並ぶ食料そのものに、生命が宿っていることを学ぶことによって食卓に運ばれる食料を無駄にしなくなるであろう。そのために自然への畏敬の念を育てる教育、農業や水産業とのふれあい、そして日本文化の持つ精神世界をきちんと教えることが、国民レベルでの食糧問題を解決へと向かわせるのではないだろうか。

忘れかけている「食」への感謝

 コンビニのおむすびを夜ご飯として食べる子供を見ることがある。子供でも簡単に安価で食料を手に入れることのできる日本は、安全で豊かで幸せな国であることは事実であろう。セブンイレブンの数は本国アメリカを抜いて一位である。マクドナルドの数もアメリカについで二位。輸入分を入れれば食料大国であることは明白である。しかし、その陰で国家としての危機が迫っている。国際政治の観点からも、そして将来の日本を担う子供の心の中にも。忙しさは結果として経済的発展を生んだが、その中でわれわれ大人自身、食への感謝の気持ちを忘れかけていたのかもしれない。国家的制作と教育、今日日本の食糧問題は今後の日本を左右する大切な時期を迎えているのである。

 
『畑のつづき』日記
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